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2006/06/23

砂のクロニクル(上)(下) 船戸与一・著

イラクやイスラエルでは悲惨な状況が続いているけれど、家族に政治家や自衛隊員、石油関係の商社マンを持たない日本人には、一見他人事のように見える。
でも、たまに「日本人と思われる遺体が戦闘地域で見つかりました・・」というニュースが流れ、それが元自衛隊員の傭兵だったり、外人部隊だったりすると、いつも船戸与一を思い出す。
彼の小説を読むたびに、「こんな日本人はいるのかなぁ・・」と疑問に思っていて、ニュースで実際に傭兵として戦う日本人がいることが分かると、「あぁやっぱりいるんだぁ・・」と、彼の小説のリアリティを実感する。

その“こんな日本人”とは、自ら望んで戦地に向かい、外国人たちに紛れて紛争地帯で戦い、決して日本でのんびり暮らそうとは考えない人たち。

今回の、この“砂のクロニクル”にも2人の日本人が出てくる。
二人とも、現地での名前をハジという。
一人はゲリラに潜入して戦地で戦える兵士を養成し、一人はゲリラに武器を横流しする武器商人。
その二人が偶然イランで出会うとき、そこは、多くの命を奪う戦地となる。


そんな状況にあっても、二人は決して日本に帰りたいなんて思わない。
彼らは、骨の髄まで戦士になりきり、戦地で死ぬことを心の奥底で願い、死んでいく。
その生き様の壮絶さは、ぬるま湯につかって生活している私の想像を絶するものだった。

それだけじゃない。
イランという国の複雑さも始めて知った。
山岳地帯に身を寄せ合い、いつか独立できることを願い続け暮らしているクルド人たち、権力争いで常に政情が不安定なアラブ人たち、そのアラブ人に飼い犬のように慣らされているアゼリ人たち、少数ながら結束力の固いゾロアスター教徒たちに、イランに経済的な活路を見出そうとするロシア人たち・・。
これは、ロシアがまだソヴィエト連邦と名乗っていた時代の小説なので、リアルな現実ではないかもしれないけれど、先日トルコで起きた飛行場火災でクルド人ゲリラが犯行声明を出したと聞くと、全くの過去でもないなと思うし、「イラクの次はイラン」と堂々と宣言するアメリカがここへ入ってくると、これ以上現実は複雑になるんじゃないかとも思う。

クロニクルとは、年代記のこと。
二人の日本人の生き様にあわせて、変わりゆくイランの姿を小説にしたこの作品。
イランについて、その他民族性について、何の知識も無く骨太の社会派アクション映画を見るように一気に読めてしまうところが、この小説のすごいところ。
興味がある人には、是非、読んで欲しい一冊。

6月 23, 2006 読書 |

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